私は20年くらい3DCGをやっていますが、レンダリングについて学んだのは20年くらい前です。その頃は、物理ベースのレンダリング(Physically-Based Rendering)というものがなかった(あったとしても一般的ではなかった)時代です。そのために、いつの日か機会があったらPhysically-Based Renderingというものを、学んでみたいと思っていたところでした。そう思い続けていたところで、Unreal Engineを触り、そしてこの本の存在を知り、購入にいたりました。
この本『Unreal Engine 4 マテリアルデザイン入門[第2版]』は、題名にもあるとおりUnreal Engine 4の本ですが、現状、日本語で書かれたUnreal Engine 5でのマテリアルの本で、他に良いものが見当たりませんでした。
UE4の本ということで、UE5と違う部分はもちろんありますが、物理ベースのレンダリング(Physically-Based Rendering)の基礎(根底部分)は、変わらないので、普遍的な知識の基礎を学ぶことが出来ます。
本の内容
PBR(Physically-Based Rendering)の基本的なマテリアルの設定方法が学べます。
ゲーム会社の背景アーティストの方が書かれているので、テクスチャのまとめ方などはプロの方法を学ぶことが出来ます。特に、個人でゲームを制作されている方は、プロのやりかたを知る方法が少ないので、参考になるはずです。
私の場合は、3DCGのアニメーションをやっていたので、Environment Artist(背景デザイナー)の人と関わることが少ない(キャラモデラー、リガー、エフェクトの人との関わりは多いので、最も縁遠い分野です)ので、知らないことばかりで非常に勉強になりました。
とくに、頂点カラー(Vertex Color)を使っていろいろなことが出来る作例が多いです。
頂点カラーを使って、一部塗装が剥げた表現や、草やカーテンなどの一部が動くような表現の仕方を学ぶことが出来ます。
頂点カラーについてあまり馴染みがない人には特におすすめです。
さらに、Addendumという巻末資料では、3DCGにおける座標系の話や、PBR基礎理論、髪、眼、布のマテリアルなどの項目があります。
特に、この巻末資料には現代の3DCGの基礎であり、重要な普遍的な内容が書かれています。
Unreal Engineがゲームエンジンということで、他の3DCGアプリケーションからアセットを持ってこないといけません。そのときに意識しておきたいのがこの座標系の話です。
また、テクスチャを使用する際に、テクスチャによって、リニアとガンマの使い分けが必要になるので、そのことについても解説されています。
単なるUnreal Engineのマテリアルの本というだけでなく、解説部分はPBRのマテリアルの解説になっているので、現代の3DCGのレンダリングについて抑えて置かなければならない基礎を学ぶことが出来ます。
よって、3DCGやUnreal Engineの初心者だけでなく、特に私のようなPBR(physically-Based Rendering)に疎い経験者にこそ、読んでいただきたいです。
ちなみに、過去にMayaからUE5にAlembicでアニメーションを持ってくる方法を解説しましたが、マテリアルの細かい設定などは基本的にUE5で作り直しになります(UVつきのテクスチャなどは持ってこれますが)。
Addendum 巻末資料 がこの本の本質
私は普段は巻末資料というものには目を通しません。
「巻末資料」という項目が出てきたら読破したんだなとある一定の達成感を得るサインとして捉えていました。
しかし、この本では「巻末資料」に理解しておくべき内容(特に「A-1 座標系」と「A-2 PBR基礎理論」)が書いてあります。基本的には最初のほうに書かれている項目ほど重要度が高く、それ以降(A-3以降)は、必要になったときに読めばよいでしょう。
「A-1 座標系」は、Unreal Engine しか使っていない人にはピンとこないかもしれませんが、非常に重要なことです。3DCGアプリケーションによって使用している座標系が異なります。特に他の3DCGアプリケーションで作ったアセットをUnreal Engineに持ってこようとする場合には、とても大事なことです。
ただ、ここに書かれていることで明らかな間違いがあったので、指摘しておきます。
Blenderについて「Yアップ」と書かれていましたが、Blenderは「Zアップ」というのは有名な話です。
私が読んだのが「第1版第1刷」だったので、それ以降のものは直っているかもしれません。
ちなみに私が購入したのはKindle版だったのですが、電子書籍ならばそういった間違いの訂正があったらすぐに対応してほしいところですが、Unreal Engine 5になってから購入したのにもかかわらずこのままというのは、残念です。
特にPBR基礎理論は必ず読もう
このPBR基礎理論の章に書かれていることが、まさしく私が知りたかった内容でした。
例えば、「Specularの値は0.5のままで、Roughnessの値をいじるだけに止めなければいけない」とか「Metaricの値は1か0のどちらか」等。特に、反射の具合を調整したい場合にはどうしてもSpecularの値で調整してしまいたくなってしまう(というか今まではしてしまっていた)人は私以外にも多くいると思うので、そのような心当たりがある人は、しっかりと読んで勉強しましょう。
また、PBRについては、UE5のようなBasecolor、Metaric、Roughnessによって表現するタイプと、Substance PainterのようなAlbedo、Specular、Glossinessで表現するタイプの違いなどがあり、そうした要因によってわかりにくかったのだということも理解でき、非常に勉強になりました。
3DCGを始めたばかりの初心者も、経験年数だけは長いけど、PBRに馴染みのない経験者どちらも有用です。現代の3DCGでは必須の知識になるので、心当たりのある人はこの章を読むためだけでも価値があります。
さらに、Unreal EngineのPBRについては、Unreal Engine公式の物理ベースのマテリアルのページも読んでおきましょう。
その後には、人の皮膚の表現では必須のサブサーフェスや、髪、眼、布のマテリアルに関する項目もありますが、一度にすべてを理解するのは難しいので、これらの項目は必要になったときに読めばよいでしょう。
まとめ
- Unreal Engine のマテリアルについて日本語で学ぶには、この本以外の選択肢がほぼない
- PBR(Physically-Based Rendering)の基礎についても学べる
- 頂点カラーを使った様々な表現手法が学べる
- UE4の本であるために、UE5の環境と違う部分がある(サンプルファイルを使ったチュートリアルの再現が困難)
Unreal Engine のマテリアルについて日本語で学べる本でこれ以上のものがないというのが現状です。
UE5版が出てくれればそれに越したことはありませんが、待っている時間がもったいないのでこの本で学びましょう(PBRの基礎などの普遍的な内容が多いため買って損はないです)。
この本では、Uunreal Engineのマテリアルについてだけ学べるのではなく、PBR(Physically-Based Rendering)の基礎について学ぶことが出来ます。
したがって、PBRについて学びたい人は、Unreal Engineというリアルタイムレンダリングのゲームエンジンで学べるという利点もあるので、この本で学ぶ価値は大いにあります。
Unreal Engineの進化のスピードは非常に速いので、本の出版が間に合わない場合がめずらしくありません(出版された途端に過去のバージョンの解説本になっていた等)。しかし、この『Unreal Engine 4 マテリアルデザイン入門[第2版]』は、確かに過去の本ではありますが、PBRについての基礎という普遍的な内容が書かれています。このような内容は一度じっくりと本で時間をかけて学んでみるのも良いでしょう。
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