超久々のDaVinci Resolveに関する記事です。
私はDaVinci ResolveのFusionでノードベースのコンポジットの記事を書いていました。しかし、CutページやEditページ、ColorページやFairlightページ等の使い方がよくわからず、いずれ勉強したいと思っていました。そんな中、この『手を動かして学ぶ DaVinci Resolve 映像編集パーフェクト教本』の目次を見てFusionで3Dの使い方を解説しているということを知り即購入に至りました。
この本の内容はまさに私が知りたかったこと(特にFusionの3Dの使い方と外部ソフトで作成した3DCGとの合成(トラッキング))が書かれていました。とくに3DCGをやっている人にとってはこれぞと言えるほどにピンポイントで知りたい内容です。
DaVinci Resolveはなんか良いみたいなんだけど、どうしてもBlenderやUnreal Engineのほうに目がいってしまいがちな3DCGをやっている人達にはぜひともDaVinci Resolveにも注目してください。
3DCGアーティストには嬉しいDaVinci Resolve教本
今までDaVinci Resolveの解説をしている方や本を書かれている方の多くは3DCGについてあまり詳しくない方が多いのか、またはニーズがないのかわかりませんが、3DCGアーティストが知りたいような内容にはあまり触れられていませんでした。
しかし、この本は3DでのFusionの使用方法や3DCGを合成するためのトラッキングの方法(これはさすがに有料版でないと出来ませんが…)が解説してあります。まさに3DCGアーティストからすると「こういうことが知りたかった」という内容に触れられている他にはない教本です。
もちろん3DCGに縁がない方がDaVinci Resolveを学ぶ際にも「Media」「Cut」「Edit」「Fusion」「Color」「Fairlight」「Deliver」といったそれぞれのすべてのページについての解説が書かれているのでDaVinci Resolveを一通り学ぶことに適しています。
また、この本は単なるDaVinci Resolveの使い方を解説しただけの本ではなく、編集やカラーグレーディングについてのいわゆる座学的な内容も含んでいます。たとえばモンタージュ理論(そんなことは知っていると思った殆どの人が想像したものよりもしっかりした解説です)などの説明もあります。DaVinci Resolveの使い方を知りたい人だけでなく編集についても学びたい方におすすめです。
良い点
著者が編集と3DCGの両方に詳しい
上にも書きましたが私がこの本を買った一番の理由がこれです。
著者のプロフィールをみると「現在は映像事業をこなしながらゲーム会社を経営しつつゲーム制作に明け暮れている」とありました。
DaVinci Resolveの解説や本を書いている人は実写映像の人がほとんど(この方もそうだと思いますが)で、3DCGを使っての映像を作成する場合についての解説で参考になるものにはなかなか巡り会えませんでした。Fusionの解説はほとんどが2Dテキストアニメーションで、3Dを扱ったものを目にする機会はほとんどありませんでした。
映像編集の大部分を網羅したチュートリアル
カット編集やエフェクトの適用、テロップの出し方などだけでなく、3DでのFusion、マズルフラッシュの合成、クロマキーによる合成、3DCGオブジェクトをトラッキングしての合成、カラーグレーディングといったDaVinci Resolveの実力を十分引き出すことができる要素のチュートリアルが網羅されています。
この本を1冊やるだけでDaVinci Resolveの可能性がよくわかる素晴らしいチュートリアルです。
他の編集ソフトではなくなぜDaVinci Resolveが良いのかが本当によくわかります。
また、「DaVinci Resolve Editor Keyboard」や「DaVinci Resolve Speed Editor」についての解説まであります。以前、有料バージョンのStudioとセットでお得に販売されていたこともあり、今後もそのようなことがあるかもしれないのでDaVinci Resolveを本気でつかいた人には参考になるでしょう。
思考のプロセスや完成形をイメージさせるチュートリアル
チュートリアル系のものには完成するまでは何をやっているのかわからない状態のものもあります。読者にとにかく手を動かさせて(思考停止状態で操作をなぞらせるだけ)完成させるだけのチュートリアルもあります。こういったものの場合は完成してからまた読み返してみないとどういう意図でこうしたのかがわかりません。
しかし、この本は「こういうふうに考えてこうする」とかFusionの場合は完成形のノードネットワークを先に示しておいてから「これをつくります」という風に思考の過程や完成形を見せながらのチュートリアルなのでとてもわかりやすいです。
DaVinci Resolveの使い方だけでなく編集についても学べる
いわゆる座学のような内容も充実しており、編集のイロハも同時に学べます。
この本の内容を一通り理解すれば自分でそれなりの作品をつくることができるようになります。
自分の作品が作れるようになればそのあとは個々の課題をみつけて勉強してゆくことができます。
イマイチな点
基本的には素晴らしい教本なのですが、当然のことながら気になった部分もあります。
Fusionの3Dのカメラの操作方法がうまくいかない
3DでのFusionについて書かれている貴重な本なのですが、どういったわけか私の環境では3Dにおけるカメラ操作がうまくいきませんでした(ちなみにWindows版です)。
この本では3D空間での操作方法として以下のように書かれていたのですが、ズームの操作だけどういうわけかうまく機能しませんでした。著者の方はMac版を使っていらっしゃるようなのでチェックしきれなかった可能性もありますし、バージョンが変わって操作が変わった可能性もあります。
ズーム | マウスホイール上下 | NG |
スライド移動 | 「マウスホイール」をドラッグ | OK |
対象を中心に回り込み (オービット) | 「Alt + マウスホイール」をドラッグ | OK |
というわけでネットで調べたらマウスだけの操作がありました。試してみたところこちらの操作はすべて機能しました。これから本を読んで手を動かされるかたはこちらの操作になれることを強くおすすめします。
ズーム | 「左ボタン + マウスホイール」をドラッグ(左右) | OK |
スライド移動 | 「マウスホイール」をドラッグ | OK |
対象を中心に回り込み (オービット) | 「右ボタン + マウスホイール」をドラッグ | OK |
写真が小さいので文字が読みづらい
特にFusionページのノードツリーの写真の文字が読みづらいので、分かりづらいところがあります。
Fusionのところは基本的に難しいところなのでここはちょっと残念です。
しかし、推理はできるので逆に勉強になるといえなくもないです。
有料バージョン(Studio)でないと使えないエフェクトが使われている
あとは、有料版のStudioでないと使えないエフェクトを使っているので無料版では同じことができない箇所がありました。しかし、こちらのほうは大した問題ではないでしょう(使いこなしたいのであれば有料版を使えば良いだけの話で、これだけの高機能アプリケーションをすべて無料で使わせろというのはあまりにも虫が良すぎる話だとも言えます)。ちなみにわたしが期待していた3Dトラッキングも無料版では使えません。
3DCG未経験者にとってはFusionの3Dの解説は難しすぎる
なにかしらの3DCGの経験があれば、「Fusionで3Dを扱う上ではこのような手順を踏む必要があるのか」と非常に勉強になります。
しかしながら、3DCG未経験者でも本に書いてあるとおりに手を動かせば確かに同じようなことができるのですが、どうしてそのプロセスを辿ったのかを理解するのは難しいです。なので、3DCG未経験者でFusionの3Dパートがちんぷんかんぷんな人は、ひとまずはその部分を飛ばしてしまってかまわないと思います。特にFusionで弾丸をモデリングすることはまずない(モデリングは他のソフトでする)のですべてを理解できなかったからといって気にする必要はありません。Fusionの3Dパートは基本的にはオープニングとエンディング部分なので後回しにすることをおすすめします。3DでなくともFusionは難しいです。特にノードベースというものの理解が。そういう意味ではAfter Effectsのレイヤーベースというのは非常に理解しやすいところが魅力なのでしょう。
「Fusionのことが嫌いでも3DCGのことは嫌いにならないでください!!」。
いやいや、Fusionも嫌いにならないでいただきたい。先にChapter10の「ノードと合成Fusionページをさらに使いこなす」を先にやってからのほうが理解しやすいと思います(さらに使いこなすというよりもまずはここからといった内容です)。
ちなみにBlenderやMaya、Cinema 4Dなどを使えば同じようなことがもっと楽(直感的に)できます。ここでつまづいたからといって「自分は3DCGには向いていない」などとは思わないでください。
ついでにどの3DCGソフトウェアが良いのかについては以下の記事をご覧ください。この記事を書いた当時よりもBlenderの勢いは増していますが、基本的な認識は変わっていません。
まとめ
- 他のDaVinci Resolveの本に比べてFusionの解説が充実している(特に3DCGをやっている人におすすめ)。
- 映像編集の大部分を網羅したチュートリアルで手を動かしながら学ぶことができる。
- 座学の部分も充実している。
- あるていどの3DCGの経験がないとFusionの3Dの解説は難しすぎるかも。
- 一部の写真が小さい(解像度も低いため)ので文字が判読できないものがある。
DaVinci ResolveはiPad版も発表されてますます勢いを増しています。飛ぶ鳥を落とす勢いのこの編集ソフトウェアが無料で使えて、しかも、3DCGとの相性も抜群だということでDaVinci Resolveを使わなり理由がいよいよ無くなりました。
DaVinci Resolveというとカラーグレーディングのイメージが強く、実際その通りなのですが、Fusionにより、完全に3Dを扱えるという利点もこの本が教えてくれました(After Effectsは2.5DだけどFusionは真の3次元空間で合成をおこなえると書いてあります)。なので3DCGアーティストとしては本当はDaVinci Resolveのほうを使うべきなのではないかと思いました。できることならばこの本の著者に次回作はぜひともDaVinci Resolve(Fusion)での3Dの合成についての解説本を執筆していただきたいと強く望みます。問題は3Dの合成というものにどれだけニーズがあるかという話になると思いますが、Blenderがこれほど盛り上がっている状況を考えるとニーズがないはずはないので期待しています。
今まではDaVinci Resolveを使っている層(実写系の人)とBlender(にかぎらず3DCGの人)を使っている人が完全に分かれている印象でした。双方にとってとても有用であるにもかかわらず上手い具合に両者を使った解説みたいなものはなかなか見ることが出来ませんでした。しかし、この本の著者は双方にオーバーラップしている稀有な存在で、そんな人だからこそこのような本が書けたのだと思います。そういうわけでDaVinci Resolve民とBlender(にかぎらない3DCG)民の両方にこの本を読んでもらって双方の可能性を広げていってもらいたいです。
最後に私もDaVinci Resolveで3DCGアプリケーションでパス(AOV)にわけてレンダリングしたものをコンポジットする記事を書いていますのでご興味のあるかたは御覧ください。
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