前回の記事(Vol.3)では、renderSetupで分けた layer_objects と layer_background をFusionでOver合成する基本を解説しました。あのVol.3の終盤、aiShadowMatteシーンで影を別レイヤーに分けた場合のノード構成をさらっと紹介したのを覚えているでしょうか。「影レイヤーの具体的な扱いはVol.4で解説します」と予告したあれです。今回がその回です。
aiShadowMatte シーンをrenderSetupでキャラクター(Beauty)と影(Shadow)に分けてレンダリングした素材を使い、Fusionで次の3つを後から自由にコントロールできるようにします。
- 背景色の差し替え(好きな色に変えられる)
- 影の色変更(黒い影を青や茶に変えられる)
- 影のぼかし(くっきりした影の輪郭を柔らかくできる)
3Dのレンダリングをやり直さずに、Fusionだけで後からいくらでも調整できる状態が目標です。
ただし、今回(Vol.4)ではVol.3にはなかった 重要な落とし穴 が1つあります。影のアルファが「グラデーション(半透明)」であることです。不透明なオブジェクトとは違い、半透明アルファはそのままOver合成するとエッジに黒ずみが出ます。この問題の原因と解決法が、今回(Vol.4)の核心です。






今回使う素材
renderSetupの実践②で出力した2枚のEXRを前提にします。


| EXR | 内容 | RGB | Alpha |
|---|---|---|---|
layer_beauty.exr | キャラクターのみ | キャラクターの色情報 | キャラクターのシルエット(くっきり) |
layer_shadow.exr | floor・wall(aiShadowMatte)+影 | ほぼ黒(Background Colorが黒のため) | 影の透過グラデーション |
layer_shadow のアルファチャンネルが、影の濃さのマップになっています。Fusionではこのアルファを使って、影に任意の色を乗せたり、Blurで輪郭を柔らかくしたりします。
Maya側の前提 Fusionで背景を差し替える場合、レンダリング時の Background Colorは黒(0, 0, 0) にしてください。グレーベージュのまま書き出すと、影エリアのRGBに背景色が焼き込まれ、Fusionで色が二重計上されます(詳しくはaiShadowMatteのTips記事を参照)。
完成イメージ:ノードの全体構成

シアン(Cyan)の背景に、赤い影をぼかした状態を完成形として話をすすめます。
最終的な合成の流れは次のとおりです。
flowchart TD
BG[Background_Cyan]
ACES_BG[ACES Transform<br>sRGB → ACEScg]
SHADOW[merge_color_shadow<br>加工済み影]
BEAUTY[Loader_beauty<br>layer_beauty]
M_SHADOW[Merge_shadow_bg]
M_FINAL[Merge_final]
ACES_OUT[ACES Transform<br>ACEScg → sRGB]
OUT[[MediaOut]]
BG --> ACES_BG
ACES_BG --> M_SHADOW
SHADOW --> M_SHADOW
M_SHADOW --> M_FINAL
BEAUTY --> M_FINAL
M_FINAL --> ACES_OUT
ACES_OUT --> OUT
linkStyle 0 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 1 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 2 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 3 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 4 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 5 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 6 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
影処理サブグラフ の中身が今回(Vol.4)の核心です。
flowchart TD
L_SHADOW[Loader_shadow<br>layer_shadow.exr]
MC[MatteControl / Blur]
BG_RED[Background_red_shadow]
ACES_RED[ACES Transform<br>sRGB → ACEScg]
M_COLOR[merge_color_shadow<br>出力:赤い影]
L_SHADOW --> MC
MC --> M_COLOR
BG_RED --> ACES_RED
ACES_RED --> M_COLOR
MC -.-> M_COLOR
linkStyle 0 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 1 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 2 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 3 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 4 stroke:#00A2FF,stroke-width:2px;奥から順に:Background_Cyan → 赤い影 → キャラクター。Vol.3と同じ「奥から積み上げる」ルールです。
ステップ1:素材を読み込む
Loaderノードを2つ追加します。Loader_beauty:layer_beauty.exrLoader_shadow:layer_shadow.exr
- 各LoaderのInspector → Format タブで
PartをRGBAに設定します。
Vol.3と同様、Over合成ではBeauty相当のRGBAパスをそのまま使います。
プリマルチプライ?Arnold × Fusionなら気にしなくていい
Vol.3の予告で「半透明アルファにはプリマルチプライの問題がある」と触れました。
ここで答えを言ってしまいます。
ArnoldはEXRをプリマルチプライ形式で書き出し、FusionはプリマルチプライEXRを前提として設計されています。
両者の仕様がぴったり一致しているため、LoaderでEXRを読み込んでMergeで合成するだけで、エッジのフリンジや色の狂いは発生しません。
補正作業は不要です。
これはFusionがVFX・CGコンポジット向けに作られているからこその強みです。After Effectsなどストレートアルファ前提のアプリでArnoldのEXRを扱おうとすると、プリマルチ補正が必要になって面倒なことになります。Fusionはそこを気にせず作業に集中できる環境です。
ちなみに、VFX業界の標準コンポジットツールであるNukeも、FusionとまったくおなじくプリマルチプライEXRを前提として設計されています。「いつかNukeを使いたい」と思っている方にとっては、Fusionで今学んでいるノードベースの考え方やプリマルチの扱いは、そのままNukeに応用できます。Fusionは無料でNukeの思想を学べる環境でもあります。
このVol.4のワークフロー全体を通じて、プリマルチプライに関して特別な操作は一切不要です。安心して次のステップへ進みましょう。
ステップ2:影をぼかす

影の輪郭を柔らかくしたい場合は、MatteControl の Inspector 内の Blur パラメータを使います。別途 Blur ノードを追加する必要はありません。
MatteControlノードを選択し、Inspectorを開きます。Blurの値を調整します(小さい値から試す)。

実質的にはアルファの輪郭がぼける効果になります。キャラクター本体には影響しません(影は layer_shadow 側で独立しているため)。
ステップ3:影に色をつける

ぼかした(またはそのままの)影マットに、任意の色を乗せます。「透明な背景の上に、影の形だけ切り抜いた色面」 を作るイメージです。
考え方
MatteControl を通した layer_shadow は、透明な背景の上に黒い影が乗った素材です。
Fusionのビューアでは透明部分がチェッカーボード柄で表示されるため、「チェッカー背景に黒い影」として見えます。影の外側はアルファ = 0(透明)です。
この素材の アルファチャンネルが「影の形・濃さのマップ」 になっています。MatteControl の出力を 黄色(Background)と青(Effect Mask)の両方に接続することで、「影の形の中だけに色を適用する」という範囲指定ができます。
Effect Maskを接続しないと、緑端子の Background_red_shadow(単色)がマスクされず画面全体を覆ってしまいます。 影の色が変わらない・全面が影の色になるトラブルの原因はほぼこれです。
flowchart TD
BG_RED[Background_red_shadow]
ACES_RED["ACES Transform<br>赤・ACEScg変換済み"]
MC[MatteControl の出力]
M_COLOR["merge_color_shadow<br>透明背景+赤影"]
BG_RED --> ACES_RED
ACES_RED --> M_COLOR
MC --> M_COLOR
linkStyle 0 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 1 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 2 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;手順

flowchart TD
SCR[shadow_color_Red]
ACES3[ACESTransform3]
LS[Loader_shadow]
MC1[MatteControl1]
M3[Merge3]
SCR --> ACES3
ACES3 --> M3
LS --> MC1
MC1 --> M3
MC1 -.-> M3
linkStyle 0 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 1 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 2 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 3 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 4 stroke:#00A2FF,stroke-width:2px;- Background(BG)ノードを追加し、ノード名を
Background_red_shadowに変更します。色を赤に設定します。 - ACES Transformノードを追加し、
Background_red_shadowの直後に接続します。- ACES Version: ACES 2.0
- Input Transform:
sRGB(Texture) - CSC - Output Transform:
ACEScg - CSC
- Merge(MRG)ノードを追加し、ノード名を
merge_color_shadowに変更します。 - 接続します:
ACES Transform(赤をACEScgに変換後)→ merge_color_shadow の 緑色(Foreground)MatteControlの出力 → merge_color_shadow の 黄色(Background)MatteControlの出力 → merge_color_shadow の 青色(Effect Mask)
- merge_color_shadow のInspector:
- Apply Mode: Normal
- Alpha Gain: 1.0
- Subtractive/Additive: 0.0
これで「影の色 × 影のアルファ」が透明背景の上に乗った状態が完成します。影の濃淡はアルファのグラデーションがそのまま反映されるため、輪郭が自然にフェードします。
黒いままでいい場合は? 影の色を変えなくていい場合(黒い影のまま使う場合)は、このステップを省略できます。ステップ5で
Blur(またはMatteControl)の出力を直接Merge_bg_shadowの緑端子に接続してください。
ステップ4:背景色・影・キャラクターをOver合成する
影処理サブグラフができたら、Vol.3と同じ要領で3段Over合成します。

手順
- Background(BG)ノードを追加し、ノード名を
Background_Cyanに変更します。色をシアンに設定します。 - ACES Transformノードを追加し、
Background_Cyanの直後に接続します。- ACES Version: ACES 2.0
- Input Transform:
sRGB(Texture) - CSC - Output Transform:
ACEScg - CSC
- Merge(MRG)ノードを追加し、ノード名を
Merge_shadow_bgに変更します。ACES Transform(シアンをACEScgに変換後)→ 黄色merge_color_shadowの出力(赤い影)→ 緑色- Over設定
- Alpha Gain: 1.0
- Subtractive/Additive: 0.0
- Merge(MRG)ノードを追加し、ノード名を
Merge_finalに変更します。Merge_shadow_bgの出力 → 黄色Loader_beauty(layer_beauty)→ 緑色- 同じOver設定
Merge_final→ACES Transform(ACEScg → sRGB)→MediaOut
flowchart TD
SCR[shadow_color_Red]
ACES3[ACESTransform3]
LS[Loader_shadow]
MC1[MatteControl1]
M3[Merge3]
BG[Background_Cyan]
ACES1[ACESTransform1]
M_BG[Merge_bg]
LB[Loader_beauty]
M_FINAL[Merge_final]
ACES2[ACESTransform2]
OUT[[MediaOut1]]
SCR --> ACES3
ACES3 --> M3
LS --> MC1
MC1 --> M3
MC1 -.-> M3
BG --> ACES1
ACES1 --> M_BG
M3 --> M_BG
M_BG --> M_FINAL
LB --> M_FINAL
M_FINAL --> ACES2
ACES2 --> OUT
linkStyle 0 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 1 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 2 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 3 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 4 stroke:#00A2FF,stroke-width:2px;
linkStyle 5 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 6 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 7 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 8 stroke:#F4C430,stroke-width:2px;
linkStyle 9 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 10 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;
linkStyle 11 stroke:#4CAF50,stroke-width:2px;BackgroundはsRGBなのでACEScgに変換してから合成する(Vol.2と同じルール)
FusionのBackgroundノードで選んだ色はsRGB色空間の値として扱われます。ACEScgのリニア空間で書き出されたEXRとそのまま合成すると色がズレるため、合成前にACES Transform(sRGB→ACEScg)で変換します。これはVol.2と同じ方針です。
PhotoshopなどsRGB画像を背景に使う場合も同じ
PhotoshopやLightroomで書き出したJPEG・PNGなどもsRGBなので同様に変換が必要です。Loaderの直後にACES Transform(Input:sRGB(Texture)-CSC/ Output:ACEScg-CSC)を挿入してから合成してください。
これで、背景・影・キャラクターをそれぞれ独立して調整できる状態が完成します。
調整のヒント
| やりたいこと | 触るノード | 方法 |
|---|---|---|
| 背景色を変える | 最終Background | 色やグラデーションを変更 |
| 影の色を変える | 影用Background | 影のBackgroundノードの色を変更 |
| 影をぼかす | MatteControl | Inspector内の Blur パラメータを上げる |
| 影を濃く/薄くする | Merge_shadow または Grade | Effect Maskの前後にBrightnessContrastを挟む |
| キャラクターの明るさ | Loader_beauty の後ろ | Gradeノードで独立調整 |
3D側を再レンダリングせずに、Fusionだけで「背景を青に」「影をもっとソフトに」「影を暖色に」といった変更ができます。
Vol.2・Vol.3との違い(おさらい)
| Vol.2 | Vol.3 | Vol.4(今回) | |
|---|---|---|---|
| 素材 | 1枚のEXR(AOV加算済み) | layer_objects + layer_background | layer_beauty + layer_shadow |
| 影の扱い | Beautyのアルファに影が混在 | 地面レイヤーに影が含まれる | 影だけ独立したEXR |
| 影の色・ぼかし | 3D再レンダリングが必要 | 地面ごと再レンダリング | 影レイヤーだけ加工可能 |
| プリマルチプライ | Effect MaskでBeautyアルファ復元 | 不透明オブジェクト中心 | FusionがEXRを自動処理・補正不要 |
renderSetupで影を分けておくことのメリットが、Vol.4で初めてフルに活きます。


まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 素材 | layer_beauty(キャラ)+ layer_shadow(影マット) |
| 合成順 | 背景色 → 加工した影 → キャラクター |
| 影の色 | Background + Effect Mask(影のアルファ) |
| 影のぼかし | MatteControl Inspector内の Blur パラメータ |
| プリマルチプライ | FusionがACEScg EXRを自動処理するため補正不要 |
| ACES Transform | ①BackgroundノードのsRGB色→ACEScgに変換(合成前) ②Merge_final出力→sRGBに変換(MediaOut直前) |
Maya側でrenderSetupにより素材を分け、Fusion側で影を独立して加工する——この2段構えが、マネ風ステージのような「境界なき空間」を自由にいじるための基本ワークフローです。
次回Vol.5では、このシーンを完成させる最後のピース——コイルの発光を仕上げます。
よくあるトラブルと対処
影のエッジにフリンジ(元の背景色の縁)が出る
原因: Maya側のレンダリング時に Background Color が黒(0, 0, 0)以外になっている。影の半透明エッジのRGBにMayaのBackground Colorが焼き込まれているため、Fusionで背景を差し替えてもエッジに元の色が残ります。
対処: Maya の Render Settings → Environment → Background Color を 黒(0, 0, 0) にしてから再レンダリングしてください(ステップ1の前提条件を参照)。
FusionはACEScg EXRのプリマルチプライを自動処理するため、プリマルチプライ起因のフリンジはこのワークフローでは発生しません。
影の色を変えたのに変わらない・全面が影の色になる
原因①(最多): MatteControl の出力が Merge_shadow の 青端子(Effect Mask) に接続されていない。
Effect Maskが空のままだと、Background_shadow(色ノード)が影の形でクリッピングされず、設定した影の色(例:赤)が画面全体を覆ってしまいます。
対処: MatteControl の出力は 黄色(Background)と青(Effect Mask)の両方に接続します。3本の線が正しく繋がっているか確認します:
ACES Transform(影の色・ACEScg変換済み)→ 緑(Foreground)MatteControlの出力 → 黄色(Background)MatteControlの出力 → 青(Effect Mask)
原因②: Background_shadow の色が 緑端子(Foreground) ではなく 黄端子(Background) に接続されている。
対処: 色を適用したい Background_shadow は必ず 緑(Foreground) に入れます。
影がまったく表示されない(透明になる)
原因: layer_shadow.exr の Part が正しく設定されていない可能性があります。
対処: Loader_shadow のInspector → Format タブ → Part が RGBA になっているか確認してください。Part が別のAOVになっていると、アルファのない素材が読み込まれます。
最終出力のビューアでキャラクターが暗すぎる、または色が変
原因: ACES Transform の Input Transform が ACEScg - CSC 以外(ACEScc や ACEScct)になっている。Vol.3のACEScc混同トラブルと同じ症状です。
対処: ACES Transform の Input Transform が ACEScg - CSC になっているか確認してください。
次回予告:Vol.5 ライトセーバーをシネマチックに仕上げる
Vol.1〜Vol.4でコンポジットの土台は完成しました。
次回はついに「発光エフェクトの極意:emissionパスを使い、あのネオン管をシネマチックで美しい発光へと仕上げる」です。
次回Vol.5は、Vol.1で書き出したEXRをそのまま使います。
再レンダリングは不要、新しいシーンも不要。手元にあの emission パスが入ったEXRがあれば、今すぐ始められます。
やること:
emission_passのLoaderをネットワークに追加し、Glowエフェクト用のサブグラフを組むBlurノードでボケ足を作り、MergeでBeautyの上に重ねてコイルを光らせるspecular_passをGradeで強調し、ハイライトに艶を出す
コイルが「ただの光るオブジェクト」から「映画の中のライトセーバー」に変わる瞬間がVol.5です。












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