「アニメーションを学ぶのに何か良い本はありますか?」
そのような質問への答えとして10人中9人が
『アニメーターズ・サバイバルキット』
と答えるでしょう。
もちろん、おすすめすべき本は他にもあります。しかし、おすすめ本のリストの中にこの本が入っていないケースを想像することは非常に難しいです。
それくらいに有名な本であり、名著です。
別の言い方をすれば、
「とにかく、『アニメーターズ・サバイバルキット』を読んでおけ!話はそれからだ。」
というこです。
ちなみに、私はこの本のおかげで3DCGアニメーターの職につけたと思っています。
それだけこの本に対する思い入れも感謝の気持ちも強いです。
そんなわけで、アニメーションに興味がある人はすべて読むべき「まさにバイブル!」な『アニメーターズ・サバイバルキット』(著/リチャード・ウィリアムズ)を紹介します。
まさにバイブル!


アニメーターズ・サバイバルキットの日本語初版です。
私が所有しているのは2004年6月25日初版第1刷発行のものです。
現在は『増補アニメーターズサバイバルキット』として増補された部分も読むことが出来ます(今から読む人は増補された部分も読めるので羨ましいです)。
また英語版ではありますが、iPad版もあります。この記事を書くにあたってiPad版を購入しました。iPad版は増補された内容も含まれています。そしてこのiPad版の一番の利点はアニメーションの動きを動画で確認できることです。
ということで英語が得意ならばこのiPad版を一番のおすすめにしたいのですが、内容がものすごく濃いのでぜひ日本語で一通りすべてを読破することを強くおすすめします。
そして常に手元においておき何かあるごとに本を開いてみてください。読み返すたびに読者のアニメーションレベルによって見落としていた部分や新たな発見があります。そのような意味で「まさにバイブル!」なのです。



公式によるiPad版紹介動画です。本の内容が動いているのをみると感動します。
3DCGアニメーターの職を得たのはこの本のおかげです
「人生を変える一冊」というものがあるとを聞いたことがあります。
私にとってこの『アニメーターズ・サバイバルキット』は、まさしくその中の一冊です。
私がこの本の初版をもっているということは、日本語版の出版後、さほど時間が経たないうちにこの本と出会ったということなのでしょう。
その頃、私はとあるところで3DCGアニメーションのトレーニングを受けていました。
最初はポートフォリオでモデリングしたものをいくつか見てもらいましたが、あまりいい顔をされませんでした。そうした流れで、慢性的に人手不足(人数が必要)ということもあり、アニメーション(モーションデザイナー)のトレーニングを受けることになりました。
そのアニメーションのトレーニングを受ける教室に置いてあったのが、この『アニメーターズ・サバイバルキット』だったのです。そこで初めてこの本を手にした衝撃は今でも覚えています。
その日のトレーニング直後、早速大型書店へダッシュして『アニメーターズ・サバイバルキット』を自腹で購入して今に至ります。その本は今も本棚の特等席に鎮座しています。
今思えば、モデラーとしては見込みがないとされた挫折経験の1つと言えるのかもしれませんが、私にとって大きなターニングポイントになりました。
そこでトレーニングを受ける中で、だんだんとアニメーションが性に合っているという感覚が芽生えてきました。
そういったわけで、今ではモデリングに対しては正直あまり興味がありません(車が好きなのであんな車やこんな車を作りたい…などと昔は思っていたのですが…)。
そういった経緯もあり、『アニメーターズ・サバイバルキット』に恩返しがしたいという思いから、多くの人にこの本を知ってほしい(読んでほしい)という思いからこの記事を執筆しています。
この本を読めば誰もが3DCGアニメーターとして就職できるとは決して言いません。
しかし、私はこの本に感謝しています(と同時にもちろんトレーニングにも感謝しています)。
ということで、この本の素晴らしさが一人でも多くの人に伝わることを願っています。
歩きの重要性
この本にはアニメーションに関するすべてが書かれているといっても良いほど内容が濃いです。そのなかでこの本では「歩き」のアニメーションについての記述がかなりの部分をしめます。それだけ「歩き」は重要だということを示しています。



本の表紙が動いています。
このロゴアニメーションを見ればそのことが理解できると思います。
まず「歩き」をトレースしよう
まずアニメーション初心者の方はこの本に載っている歩行アニメーションをトレースすることからはじめてください。それだけでも物凄い学びがあります。私もトレースしました。この本の著者は映画で活躍された方なので1秒24フレームが原則として書かれています。よって3DCGで制作する場合は24fpsに設定する必要があります。またよく使用される30fpsで表現する場合は自分の脳内で変換しながらの作業になりますが、原則は一緒です。
この「ノーマルな歩行」は、すべてのアニメーターのお手本になったといっても言い過ぎではありません。
この「ノーマルな歩行」は、これからもずっとアニメーターの教科書としてトレースされ続けられます。
よくある間違いとして、「両足を広げた幅が最も広い状態のコンタクトポジションのときに腰の位置が最も低くなる」というものがあります。また、「正面から見たときにパッシングポジションで足を上げている側の骨盤が上がっている」(これも間違いです)というものもあります。自分の感覚だけで考えるとそのように勘違いしてしまいがちです。
次の「様々なバリエーションの歩きという点ではそういう歩き方もあり」ですが、教科書的には違うということはしっかりと理解していないといけません。理解した上で敢えてそうするからこそ違うバリエーションの歩きになるからです。
どうでもよい昔話ですが、「人間は歩くときに両足が1番広がっているとき(コンタクトポジション)に腰の位置が最も低くなるんだから、そのように直せ!」と言われてモヤモヤしながら修正した思い出があります…。今ならばそういう歩き方がお望みなのだと理解を示すこともできなくはないですが…。
様々なバリエーションの歩き
この本では「歩き」に様々なバリエーションを加える方法が書いてあります。ではなぜこのように様々な歩きのバリエーションを考える必要があるのでしょうか。
それはキャラクター作るときに、「まずそのキャラクターがどのように歩くか?」というところから考えるからです。とパントマイムアーティストである荒木シゲル氏から教わりました。
荒木シゲル氏は「アニメーションサイエンス」というDVDを出された方です。このDVDはamazon等ではプレミアムな価格のついた中古品が売られていますので、興味のある方は前のリンクにあるCGWORLDのチュートリアルでの視聴をおすすめします。
私は幸運にも荒木シゲル氏のアニメーションに関するパントマイムのレクチャーを受けたことがあります。そのレクチャー時におっしゃられていた言葉がそれです。
この歩きに関しては二足歩行の人間の「歩き」だけではありません。犬や猫のような四足動物の歩き(走り)も詳しく解説されています。同じ四足動物でも馬についてはまた別に解説してあります。4つ足動物の歩きをアニメーションするのは非常に難しいのでこの本で解説されている原則を頭にいれてから取り掛かる必要があります。特に「馬がダチョウと人のように歩く」という解説は秀逸です。これだけのためにでも買う価値があるくらいです。



こちらがその解説部分です。
盛りだくさんの内容(アニメーションのすべてがこの本の中に!)



フェイシャルの解説もありますが、こちらは実際に動いている動画を見れないと厳しいです。この部分はiPad版に分があります。
表情、まばたき、リップシンクについても解説されています。歩き(走り)に比べるとページ数は少ないですがしっかり解説されています。このあたりは動画で見られるiPad版がおすすめですが、まずはしっかり読める日本語版の書籍を読破することが大事です。iPad版といえどもすべての解説が動画になっているわけではありません。どうしても動画が見たい場合は私のようにまずは日本語の書籍版を読破してからiPad版を購入しましょう。
とにかく内容が膨大なため一気にすべてを習得するのは無理です。そのためには常に手に取れるように手元において置かなければなりません。バイブルのように(枕の側に置いて寝ても良いでしょう)。
すぐに実践できるレッスン1からはじめよう
非常に盛りだくさんな内容だということはお話しました。しかし、誰にでも今実践できるレッスン1というものがあります。しかも即効性のあるアニメーションが上手くなる方法だと書いてあります。
そんな夢のような方法があるとしたら、本来ならばこの本の読者だけで独占しておきたいところです。しかし、私の記事をここまで読んでくれたあなたには特別にお教えしましょう(笑)。
答えをみる
それは「作業中音楽を聴かないこと。静寂と向き合うこと」です。
これは多くの人にとって耳の痛い話ではないでしょうか。
私はこの記事を書くために再びこの本を開くまでこのことは忘れていました。
私の場合は集中出来ない時や集中状態へ持っていきたい時に音楽を聴いてしまいます。集中してきたらうっとうしくなって音楽を止めます。
私だけでなくこういう仕事ではまわりはイヤホンで耳を塞いでいる人 (今はAirPods Proでノイズキャンセリングだけしている人かもしれませんが…) が多いです。しかし、この巨匠の言葉に耳を傾けてレッスン1からはじめてみてはいかがでしょうか。私もそのように努力します。
確かにアニメーションはタイミングが大事な要素なので音楽を聴いているとそのリズムやテンポに惑わされてしまう部分がありそうです。そういう意味でも理にかなっているように思いました。
まとめ


- アニメーションに関する普遍的なことが学べる
- 時間が経っても色褪せない内容なので一生手元に置いておける
- 膨大なボリュームなのですべてを消化するのは大変
- アニメーションなのでやはり動画で見たい(その場合はiPad版をどうぞ)
分厚い本ですが、まずは一通りすべて読破することから始めましょう。
私は初めてこの本を手に取ったときに一気に(といっても何日もかかりましたが…)読破しました(それだけ衝撃をうけて夢中になって読んでいました)。
内容に関しては文句なしに素晴らしい本なので決して後悔させません。
しかし、この本に難点があるとすれば、質量ともにボリュームがいっぱいなので、消化しきれずに挫折してしまうおそれがあることです。千里の道も一歩から。あせらず、無理せず、少しずつ、ゆっくりと読み進めて行きましょう。
内容をしっかりと理解するためには、頭の中で内容を消化する時間も必要です。
そういう意味では、私のように一気に読んでしまうのは本当はあまり良くないのかもしれません(笑)。
一通り読んだ後は、レベルに応じて必要なところを重点的に学びましょう。初心者はまずは歩きのトレースです(これだけでも凄いアニメーションが出来たと感動するはずです)。
英語が得意なら別ですが、まずは日本語版の本を購入しましょう。iPad版はアニメーションを動画で確認できるのが最大の利点ですが、すべての作例が動画になっているわけではありません。この点は注意しましょう。
そして特別に教えたレッスン1の内容を忘れずに!
実はもうひとつ「まさにバイブル!」な本があります。それは『キャラクターアニメーション クラッシュコース』(著/エリック・ゴールドバーグ)です。こちらの本について書いた記事もぜひ読んでみてください。<2020年8月1日追記>


こちらがその本です。こちらも大変おすすめです。
ディズニーのアニメーションの12原則については以下の記事で解説しているので、ぜひ御覧ください(12原則の部分にとびます)。



アニメーションのバイブルといえばなんといってもこれです!!
ディズニーのアニメーションの12原則が書かれています。
絶版になってしまいプレミア価格がついてしまっているのでおすすめはしませんが…。


The Illusion of Life (Disney Editions Deluxe)(Amazon)



英語に自信がある方は原書はいかが?
こちらはもう少しお安く手に入ります。
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